コラム

公開 2020.10.26 更新 2024.03.28

生前贈与と相続税の関係は?注意すべき生前贈与加算の概要と計算方法

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相続が起きて相続税の課税対象になる財産を確認する際、気を付けなければならないのが「生前贈与加算」です。被相続人が亡くなった時点の遺産だけでなく、生前に贈与した財産でも相続税の課税対象になるものがあります。相続税の申告を適切に行うためにも、生前贈与加算の対象者や対象財産、生前贈与加算がある場合の相続税の計算方法を正しく理解しておくことが大切です。

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生前贈与と相続税の関係

生前に贈与された財産には贈与税がかかり、相続によって取得した財産には相続税がかかるのが原則です。
しかし、贈与税と相続税のこの原則的な考え方を徹底してしまうと、亡くなる直前に財産を贈与することで相続税を簡単に回避できてしまいます。

このような課税逃れを防いで課税の公平性を維持する必要があり、そのために設けられている制度が「生前贈与加算」です。亡くなる直前に贈与された財産は贈与税ではなく相続税の課税対象として扱われます。

相続開始前3年以内に生前贈与された財産は相続税の課税対象

生前に贈与された財産は原則として贈与税の課税対象ですが、相続開始前3年以内に贈与した財産は相続税の課税対象になります。
相続税の生前贈与加算と呼ばれる制度で、亡くなる直前に財産を贈与しても相続税の課税対象が減らず課税の公平性が保たれる仕組みです。

相続が起きたときには相続が起きた時点の故人の所有財産だけに目が行きがちですが、それ以外のものも含めて相続税の課税対象になる財産には次のものがあります。

  • 相続や遺贈によって取得した財産(本来の相続財産)
  • 死亡保険金や死亡退職金(みなし相続財産)
  • 被相続人の死亡前3年以内に被相続人から贈与された財産(生前贈与加算)
  • 相続時精算課税制度の適用を受けている財産

相続税を計算する際には、亡くなる前3年以内に贈与された財産も含めて課税対象を漏れなく把握して、正しく税額を計算することが大切です。

なお、生前贈与加算の対象になる財産を贈与された際に贈与税を払っているケースでは、相続税額を計算した後にすでに納税済みの贈与税額を引いて納税額を計算します。
そのため、贈与税と相続税が二重課税される心配はありません。

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相続税の生前贈与加算の対象になる人

生前贈与加算の対象になるのは、「相続や遺贈によって遺産を取得した人」に対して被相続人が相続開始前3年以内に贈与した財産です。
それ以外の人に生前に贈与した財産は加算の対象にはならず、相続税の計算に含める必要はありません。

例えば、親が亡くなり、子1人が相続人のケースでは、3年以内に生前贈与された財産のうち子への贈与は生前贈与加算の対象として相続税の計算に含めます。
一方で、孫への贈与は加算の対象外なので、3年以内に贈与された財産があっても相続税の計算には含めません。

ただし、被相続人が遺言書を残していて孫が遺贈によって財産を取得する場合や、孫が生命保険金の受取人になっている場合は生前贈与加算の対象になります。
また、子が相続放棄をした場合には「相続や遺贈によって遺産を取得した人」ではなくなるため、生前贈与加算の対象にはなりません。

このように、誰が生前贈与加算の対象になるのかは、相続が起きた際の状況や相続税の他の規定との関係で異なります。
相続に慣れていない方が生前贈与加算の対象を判断するのは簡単ではないため、相続税の計算は税理士などの専門家に相談・依頼した方が良いでしょう。

相続税の生前贈与加算の対象になる財産

「相続や遺贈によって遺産を取得した人」に対して被相続人が相続開始前3年以内に贈与した財産であれば、贈与した時点で贈与税がかかっていたかどうかに関係なく生前贈与加算の対象になります。
贈与税の基礎控除額110万円以下の贈与には贈与税がかかりませんが、贈与した当時に基礎控除額以下で贈与税が非課税だったとしても、相続税まで非課税になったり生前贈与加算の対象外になったりするわけではありません。
課税総額が相続税の基礎控除額以下で結果的に相続税がかからない場合もありますが、110万円以下の生前贈与についても相続税額を計算する段階では忘れずに含めるようにしてください。

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相続税の生前贈与加算の対象にならない財産

生前贈与加算の対象になるのは亡くなる前3年以内に贈与された財産です。それよりも前に贈与された財産は加算の対象にはなりません。
また、3年以内に生前贈与を受けた人が「相続や遺贈により遺産を取得した人」に該当しない場合も加算の対象外になります。

そして、以下に挙げる贈与税の特例制度を適用している財産も生前贈与の加算の対象にはなりません。
相続税を計算する際には、特例制度を適用した贈与財産の価格は含めずに税額を計算します。

  • 贈与税の配偶者控除の特例制度を利用した財産
  • 住宅取得等資金の贈与の非課税制度を利用した財産
  • 教育資金の一括贈与の非課税制度を利用した財産
  • 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度を利用した財産

贈与税の配偶者控除の特例制度を利用した財産

贈与税の配偶者控除の特例制度とは、「婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産の取得資金を贈与した場合に、贈与税の基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除できる制度」です。
この特例制度を受けている、または受けようとする財産のうち、配偶者控除額に相当する金額は生前贈与加算に含める必要はありません。

住宅取得等資金の贈与の非課税制度を利用した財産

住宅取得等資金の贈与の非課税制度とは、「直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得または増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合に、一定の要件を満たすと最大3,000万円まで贈与税が非課税になる制度」です。
非課税になる金額は住宅の種類などによって異なりますが、この特例制度によって贈与税が非課税になった金額は生前贈与加算に含める必要はありません。

教育資金の一括贈与の非課税制度を利用した財産

教育資金の一括贈与の非課税制度とは、「30歳未満の人が教育資金に充てるために直系尊属から資金の贈与等を受けた場合に、一定の要件を満たすと贈与された金銭等のうち1,500万円まで贈与税が非課税になる制度」です。
相続や遺贈によって財産を取得した人が相続開始前3年以内に教育資金の贈与を受けていた場合でも、当特例制度を利用した贈与については生前贈与加算に含める必要はありません。

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度を利用した財産

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度とは、「20歳以上50歳未満の人が結婚・子育て資金に充てるために直系尊属から資金の贈与等を受けた場合に、一定の要件を満たすと贈与された金銭等のうち1,000万円まで贈与税が非課税になる制度」です。
相続や遺贈によって財産を取得した人が相続開始前3年以内に結婚・子育て資金の贈与を受けていた場合でも、当特例制度を利用した贈与については生前贈与加算に含める必要はありません。

生前贈与加算がある場合の相続税の計算方法

生前贈与加算がある場合の相続税の計算方法についても確認しておきましょう。

相続税の計算や申告書の作成は税理士に依頼するのが一般的ですが、税額計算の大まかな流れや相続税の計算の仕組みを理解しておくと、何もわからず単に税理士から納税額を知らされて納税する場合よりも納得感を持って相続税を納税できます。

相続税の計算で使う生前贈与財産の価格

生前贈与加算の対象になる財産がある場合、財産の価格として相続税の計算で使う金額は「財産を贈与された時の価格」です。「相続が起きた時の価格」ではありません。
例えば、亡くなる前年に現金300万円を贈与されて、相続開始時点ではすでに200万円を使っており手元に100万円しか残っていない場合でも、相続税の計算で使う金額は100万円ではなく300万円です。
生前に贈与された財産を相続開始までに使えば、生前贈与加算の金額が減ったり相続税が減ったりするわけではなく、あくまで贈与された時の価格を使って相続税を計算します。

計算例

ここでは、父親に現預金1億円の遺産がある状態で亡くなり、相続人が子1人で相続開始前3年以内に現金800万円を子が父親から贈与されていたケースを考えます。
相続税の金額と生前に現金800万円を贈与された時点で支払った贈与税の金額はそれぞれ次のとおりです。なお、贈与税の税率には一般税率と特例税率の2種類がありますが、以下では特例税率を適用して税額を計算します。

  • 相続税額 = (遺産1億円 + 生前贈与加算800万円 – 基礎控除額3,600万円) × 税率30% – 控除額700万円 = 1,460万円
  • 贈与税額 = (贈与額800万円 – 基礎控除額110万円) × 税率30% – 控除額90万円 = 117万円

つまり、1,460万円と117万円の差額である1,343万円が相続税の納税額になります。
なお、仮に生前贈与加算を考慮し忘れて800万円を含めずに相続税を計算すると1,220万円と計算されてしまい、正しい納税額1,343万円より過少申告になるため注意が必要です。
後になって税務署から指摘を受けて延滞税や過少申告加算税などの罰金を科されては大変なので、相続税の計算では生前贈与加算を忘れずに考慮するようにしてください。

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過去の相続税申告で生前贈与加算の適用を間違えていた場合

相続税の課税対象になる財産を正しく把握して、申告期限までに適切に相続税の申告を終えることが大切です。
ただ、実際には後から申告内容の間違いに気づいて申告をやり直すケースもあります。

生前贈与加算の適用を間違えて税額を過少に申告していた場合には「修正申告」を行い、逆に税額を過大に申告していた場合には「更正の請求」を行って還付金を受け取りましょう。

税額を過少に申告していた場合:修正申告を行う

税額を誤って過少に申告していた場合、正しい内容に申告し直す「修正申告」を行います。
過少に申告していた税額(修正申告で追加で納税する相続税額)に対して罰金が科されることになりますが、間違いに気づいた場合には1日でも早く修正申告を行うことが大切です。

納付期限の翌日から完納までの日数に応じて延滞税がかかり、ケースによっては税率が非常に高い過少申告加算税や重加算税が科されます。
まず過少申告加算税は修正申告を行うタイミングによって税率が変わり、税務署から調査の事前通知が来る前に自主的に修正申告をした場合にはかかりません。
しかし、税務調査の事前通知を受けて以降に修正申告をすると50万円以下の部分には5%、50万円超の部分には10%の税率で過少申告加算税がかかり、税務調査を受けた後に修正申告をした場合には5%増えてそれぞれ10%と15%になります。
さらに、税務署から悪質と判断されて重加算税を科されると、その税率は35%と非常に高くなるため注意が必要です。

なお、相続税の申告の義務はないと当初考えて申告をしなかったものの、申告期限後になってから生前贈与加算の適用漏れに気付いて相続税の納税が必要であると判明したようなケースでは、期限後申告が必要になり無申告加算税が科されることになります。

税額を過大に申告していた場合:更正の請求を行う

「相続や遺贈によって遺産を取得した人」以外への生前贈与財産の価格を誤って相続税の計算に含めて相続税を多く払っていたような場合には、「更正の請求」を行って正しい内容に申告し直すことで払い過ぎた税金の還付を受けられます。
相続税の還付請求の期限は相続税の申告期限から5年です。すでに相続税申告を終えた方でも、過去の申告内容について再度チェックすることで税額が安くなって還付金を受け取れることがあります。
生前贈与加算の適用ミスだけでなく、例えば土地の評価減の特例の適用漏れなど還付金を受け取れるケースは他にもあるので、気になる方は税理士に相談してみると良いでしょう。

まとめ

相続税がかかるのは故人が亡くなった際に所有していた財産だけではありません。
相続が起きる前3年以内に「相続や遺贈によって遺産を取得した人」に対して生前贈与された財産も相続税の課税対象になります。

また、生前に贈与された財産がある場合には、相続税の計算以外にも遺産分割協議で特別受益として考慮する必要があるなど、生前贈与財産の取扱いに特に注意が必要です。
生前に贈与された財産の扱いをめぐって相続トラブルになるケースもあります。
相続手続きをスムーズに進めるためにも、相続が起きた際にはオーセンスにぜひご相談ください。

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Authense法律事務所には、遺産相続について豊富な経験と実績を有する弁護士が数多く在籍しております。
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私たちは、複雑な遺産相続の問題をご相談者様にわかりやすくご説明し、ベストな解決を目指すパートナーとして供に歩んでまいります。
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記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
上智大学法学部国際関係法学科卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。企業法務や顧問業務、個人法務など幅広い分野に対応。個人法務では、離婚、相続、労働事件などを取り扱う。
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