コラム

公開 2020.11.11 更新 2024.02.26

自筆証書遺言と公正証書遺言の違いとは?検認は必要?

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自筆証書遺言と公正証書遺言の違い、検認について解説します。遺言書で一般的に利用されるものは自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類です。遺言書作成の際には特徴を理解し適切な形式を選ぶ必要があります。また、2020年7月から始まった自筆証書遺言を法務局で保管する新制度も紹介します。

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自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

自筆証書遺言は文字通り自筆、つまり遺言者本人による手書きで作成する遺言で、公正証書遺言は公文書である公正証書の形で作成する遺言です。遺言書を作成した後に相続開始まで保管して、相続開始と同時に遺言書が効力を発揮するまでの流れをまとめると、以下のようになります。

自筆証書遺言 公正証書遺言
作成方法 財産目録を除いてすべて自筆で作成する。 証人2人以上の立会のもと公証役場で作成。遺言者が公証人に遺言内容を口述する形で公証人が作成する。
保管方法 自宅などで保管するか法務局で保管する。 公証役場で原本が保管される。
相続開始後の手続き 法務局で保管されている場合は、相続人は法務局で遺言の内容を確認でき検認は不要。故人の自宅などで保管されている場合は検認が必要。 遺言の内容を公証役場で確認できる。検認は不要。

遺言書の作成方法

自筆証書遺言は、財産目録以外の全文を手書きで作成する必要があります。代筆によって他人が作成することは認められていません。財産目録だけはパソコンなどで作成しても問題ありませんし、登記事項証明書や通帳のコピーを遺言に添付して財産目録に代えることも可能ですが、それ以外の部分はパソコンなどで作成すると無効になります。

また、自筆証書遺言を法務局で保管する制度を利用する際には、保管の申請をすると遺言書の形式に問題がないかどうかチェックを受けることになります(なお、遺言書の内容が適切かどうかについては審理されませんので、注意が必要です。)。決められた要件を満たしていないと保管が受理されないので、保管制度を利用する場合には遺言書を作成する前に法務局に要件を確認するようにしましょう。

公正証書遺言は遺言者が遺言の内容を公証人に口述する形で作成します。遺言書自体を作成するのは遺言者本人ではなく公証人で、証人2人以上の立会が必要です。実際に公正証書遺言を作成する場合は、事前に公証人と打ち合わせをして遺言の内容について確認し、その後遺言書を作成する日を予約して予約日になったら公証役場等で遺言書を作成します。

遺言書の保管方法

以前は、自筆証書遺言を作成したら自宅などで保管することが一般的でした。しかし、2020年7月から新制度が始まり、現在では法務局で自筆証書遺言を保管できるようになっています。法務局で保管する制度を利用するには申請手続きが必要です。公正証書遺言の場合は公証役場で作成した後に原本が公証役場で保管され、遺言者には正本や謄本が渡されます。

相続開始後の検認の有無

検認とは相続開始後に家庭裁判所で行うもので、家庭裁判所の裁判官と各相続人とが一堂に会し、遺言書の形状・日付・署名、遺言書の発見状況、保管状況、署名部分の筆跡、捺印部分の印影などを相互に確認して、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。家庭裁判所に対する検認申立ての後、検認期日が指定され、その日に遺言書の検認が行われることになります(封のされている遺言は、検認期日まで開封してはいけません。)。申立てから検認期日までは、約1月半程度かかります。

なお、検認手続きは、上記のとおり、遺言書の形状・日付・署名、遺言書の発見状況、保管状況、署名部分の筆跡、捺印部分の印影などを確認するだけの手続きであり、その場で遺言書の有効や無効を確定させる手続きではありません。遺言の検認期日において、遺言が無効であると主張しても裁判官に取り合ってもらえませんので、遺言が無効であると主張したい者は、別途、遺言無効確認訴訟を提起する必要があります。

このように、法務局で自筆証書遺言を保管する制度が始まる以前は、相続開始後に故人の自宅などで自筆証書遺言が見つかると検認の手続きが必要でした。

しかし、新制度が始まった現在では、自筆証書遺言が法務局で保管されていれば検認の手続きは必要ありません。そもそも保管を申請する際に形式面の不備がないかチェックを受けていて形式不備の可能性がなく、法務局で保管するので偽造・変造のリスクもないからです。

また公正証書遺言については検認の手続きは不要で、相続開始後に公証役場に行けば相続人は検認の手続きを経ずにすぐに遺言の内容を確認できます。自筆証書遺言が法務局で保管されている場合と同様に、公証役場で保管されている公正証書遺言には偽造・変造のリスクはなく、検認によってあらためて裁判所で確認する必要はないからです。

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自筆証書遺言のメリットとデメリット

​自筆証書遺言と公正証書遺言の違いを踏まえて、まずは自筆証書遺言のメリット・デメリットについて見ていきましょう。

メリット

自筆証書遺言のメリットとしては、たとえば以下のような点が挙げられます。

  • 手軽に作成できる
  • 費用がかからない
  • 法務局で保管する制度を利用すれば偽造・変造・紛失のリスクがなく検認が不要

まず、自筆証書遺言は自宅で手軽に作成できて、作り直しをする場合も手間がかからない点がメリットです。公正証書遺言のように公証役場に出向いたり公証人との事前の打ち合わせを行ったりなど、手間や時間がかかることはありません。

また、筆記用具や紙、印鑑などを揃えれば作成できるため、費用をかけずに作成できる点も自筆証書遺言のメリットの一つです。法務局で保管する制度を利用する場合でも手数料は3,900円と安く、公正証書遺言のように大きな費用をかけずに作成できます。

さらに、法務局で保管すれば検認の手続きが不要になるので、相続人の手続き負担を減らすことができ、偽造・変造・紛失のリスクもなくなり安心です。

デメリット

自筆証書遺言にはメリットがある反面、以下のようなデメリットがあります。

  • 形式不備により遺言が無効になる場合や相続トラブルになるリスクがある
  • 自宅等で保管する場合には偽造・変造・紛失のリスクがある
  • 法務局で保管された自筆証書遺言以外の遺言は検認の手続きが必要になる
  • 遺言書作成時に遺言者に意思能力がなかったとして争われやすい

自筆証書遺言には法律で定められた形式的要件があり、この点を理解せず要件を満たさない自筆証書遺言を作成すると、自分の死後に不備が明らかになって遺言書が無効になります。また、自筆証書遺言は自分一人でいつでも作成できる点がメリットではあるものの、この点はリスクにもなり得るため注意が必要です。

自筆証書遺言の作成では公正証書遺言のように証人が立ち会うわけではなく、遺言書を作成した際に遺言者に十分な意思能力があったのか証明できる人がいないことも多いです。遺言作成時点で遺言者に意思能力があったのか、相続開始後に遺言書の効力を巡って相続人同士で争いになる場合があります。

そして、自筆証書遺言を作成した後に自宅などで保管する場合には偽造・変造・紛失のリスクがあり、相続開始後に検認が必要になって相続手続きに手間がかかる点がデメリットです。ただし、法務局で保管する新制度を利用すれば、この点はいずれも解決できます。

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公正証書遺言のメリットとデメリット

​続いて公正証書遺言のメリットとデメリットについて解説しましょう。自筆証書遺言と比較して公正証書遺言にはどのような特徴があるのかを紹介していきます。

メリット

公正証書遺言のメリットとしては、たとえば以下のような点が挙げられます。

  • 公証人が作成するので形式不備により無効になるリスクが基本的にない
  • 公証人が作成するので字が書けない人でも作成できる
  • 出張作成制度を利用すれば自宅や病院でも作成できる
  • 公証役場で保管するので偽造・変造・紛失のリスクがない
  • 検認が不要
  • 公証人や証人の面前で作成するため、遺言書作成時の意思能力について争われる可能性が低い

まず、公正証書遺言は法律に精通した公証人が作成するので、形式不備が起きる心配は基本的にありません。自筆証書遺言のように相続が開始してから形式不備が発覚して無効になる心配がない点が一つ目のメリットです。そして、公正証書作成時には公証人と証人2人が立ち会うことが法律上求められているため、遺言者の遺言書作成時の意思能力について、争われる可能性が低くなり、事後的な紛争を回避しやすくなります。

また、自筆証書遺言では代筆が認められず自分で書いて作成しなければなりませんが、公正証書遺言では遺言者は口述するだけで遺言書自体は公証人が作成します。そのため、遺言者が字を書けない場合でも作成が可能です。

さらに、公正証書遺言には出張作成制度があるため、自宅で寝たきりの状態の人や病院に入院している人でも作成できます。自筆証書遺言を法務局で保管する新制度には出張作成制度がなく、この点は公正証書遺言のほうが大きく優れている点です。

そして、公証役場で保管するので偽造・変造・紛失のリスクがなく、相続が開始した際の検認の手続きも不要なので相続人の相続手続きの手間や負担を減らせます。ただし、この点は自筆証書遺言を法務局で保管する制度でも同じなので、新制度が開始した現在では公正証書遺言に限ったメリットではありません。

デメリット

公正証書遺言にはメリットがある反面、以下のようなデメリットがあります。

  • 作成に費用がかかる
  • 作成に手間がかかる

公正証書遺言を作成するには手数料がかかり、遺言の対象となる財産額が大きくなるほど手数料の金額も上がります。証人を依頼した場合の手当ては一人当たり5,000円~15,000円かかることが一般的で、出張作成制度を利用した場合の料金は公証役場で作成する場合の1.5倍です。そのため、自筆証書遺言に比べて費用がかかる点は理解しておく必要があります。

​また、作成に手間がかかる点も公正証書遺言のデメリットの一つです。事前に公証人と打ち合わせをしたり必要書類を揃えたりしなければならず、その上で作成する日を予約して遺言書を作成します。自筆証書遺言のようにいつでも手軽に作成できるわけではありません。

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自筆証書遺言の保管制度と公正証書遺言の比較

​2020年7月から自筆証書遺言を法務局で保管する制度が始まり、これまで自筆証書遺言のデメリットとされていた点のいくつかが解消されました。しかし、新制度が開始して自筆証書遺言が使いやすくなったとは言え、すべての点で自筆証書遺言が公正証書遺言より優位になったわけではありません。

自筆証書遺言の保管制度と公正証書遺言を比較したときのそれぞれの制度の特徴や違いを理解しておくことが大切です。以下では、ポイントごとに分けて自筆証書遺言の保管制度と公正証書遺言を比較していきます。

自筆証書遺言の保管制度であれば費用が安く済む

自筆証書遺言の保管制度を利用する場合の手数料は3,900円で済むのに対して、公正証書遺言を作成する際には以下の手数料がかかります。

目的の価額 手数料
100万円以下 ​5,000円
​100万円を超え200万円以下 ​7,000円
​200万円を超え500万円以下 ​11,000円
​500万円を超え1,000万円以下 ​17,000円
​1,000万円を超え3,000万円以下 ​23,000円
​3,000万円を超え5,000万円以下 ​29,000円
​5,000万円を超え1億円以下 ​43,000円
​1億円を超え3億円以下 ​43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下 ​95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を加算した額
10億円を超える場合 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額

また、全体の財産が1億円以下のときは上記の表によって算出した手数料額に1万1,000円が加算され、公証人が病院や自宅等に赴いて公正証書を作成する場合には50%加算されます。

公正証書遺言は作成に手間がかかる

自筆証書遺言を法務局で保管する場合、法務局で保管の申請を行うと遺言書の形式に不備がないかどうかチェックを受け、問題がなければ受理されて保管申請の手続きは終了です。

一方で、公正証書遺言の場合には事前に公証人と打ち合わせをしたり公証役場で遺言書を作成したりするなど、何かと手間がかかり遺言書の作成まで時間がかかります。

自筆証書遺言の保管制度には出張制度がない

自筆証書遺言の保管制度では本人が法務局に出向く必要があり、公正証書遺言のような出張制度はありません。自宅で寝たきりの人や入院していて法務局に行けない人が遺言書を作成したい場合には、公正証書遺言の出張作成制度を利用する必要があります。

偽造・変造・紛失のリスクがない点は同じ

従来の自筆証書遺言は自宅などで保管していたため、偽造されたり紛失したりリスクがありました。以前はこのリスクを回避するために公正証書遺言を選択する人もいましたが、法務局で自筆証書遺言を保管する制度が始まった現在では、この制度を利用すれば自筆証書遺言でも偽造や紛失のリスクを回避できます。

自筆証書遺言の保管制度を利用すれば公正証書遺言と同じく検認が不要

自筆証書遺言を自宅で保管すると検認が必要となり、実際に相続が開始したときに相続手続きで手間がかかる点が自筆証書遺言のデメリットの一つでした。

しかし、法務局で保管する制度が新たに始まり、当制度を利用した自筆証書遺言は検認が不要になります。そのため、検認が不要になり相続人の手続き負担を減らせる点は、自筆証書遺言の保管制度でも公正証書遺言でも同じです。

相続トラブル回避には公正証書遺言がおすすめ

自筆証書遺言の保管制度では、遺言書の形式に不備がないかどうかを保管申請時に確認してもらえます。しかし、チェックしてもらえるのはあくまで形式面のみで、遺言の内容が適切かどうかや、後々に相続人間でトラブルを起こすような内容になっていないかについて、法務局にチェックしてもらえるわけではありません。また、遺言書作成時の遺言者の意思能力に問題がないかどうかも保証してもらえるわけではありません。

一方で、公正証書遺言の場合には、遺言者が口述した遺言の内容を実現できるように公証人が適切な文言で遺言書を作成してくれます。

もちろん、遺言の内容をイチからすべて公証人が考えてくれるわけではなく、遺言の内容自体は自分で事前に考えておく必要がありますが、自筆証書遺言に比べて相続トラブルを回避しやすい点が公正証書遺言の大きな特徴です。

また、自筆証書遺言とは異なり作成時に公証人や証人が立ち会うため、遺言者本人の意思能力や遺言の効力を巡る争いは起きにくくなります。自筆証書遺言の保管制度では、遺言作成時点で認知症などを発症していなかったか、意思能力が十分だったのかどうか、この点を巡って後々に争いになる可能性がある点には注意が必要です。

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まとめ

自筆証書遺言と公正証書遺言にはさまざまな点で違いがあります。遺言書を作成する際にはそれぞれの特徴を理解して遺言書の形式を決めることが大切です。

2020年7月からは自筆証書遺言を法務局で保管する制度が始まり、公正証書遺言と同様に検認が不要になるなど、従来よりも自筆証書遺言が利用しやすくなりました。ただし、相続トラブルを回避するためには公正証書遺言で遺言書を作成したほうが良いでしょう。

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記事を監修した弁護士
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弁護士 
(神奈川県弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。相続を中心に、離婚、不動産法務など、幅広く取り扱う。相続人が30人以上の複雑な案件など、相続に関わる様々な紛争案件の解決実績を持つ。
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