コラム

公開 2021.01.12 更新 2024.02.26

孫に生前贈与するやり方・メリットは?非課税制度と注意点について弁護士が解説

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孫への生前贈与を上手く活用すると、相続税や贈与税を節税できるメリットがあります。贈与税控除制度もたくさんあるので、上手に利用しましょう。孫へ生前贈与するメリットやおすすめの非課税制度、生前贈与するときの注意点について解説します。

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孫へ生前贈与するメリット

まずは孫へ生前贈与するメリットをみてみましょう。

節税できる

孫へ生前贈与すると、贈与された財産は相続税申告の際の基礎となる相続財産ではなくなります。
相続税は、死亡したときの相続財産の評価額に応じてかかるので、先に孫へ贈与して相続財産を減らしておけば相続税を節税できます。

また、孫への生前贈与に適用できる贈与税の控除や非課税制度はたくさんあるので、そういったものをうまく使えば贈与税の負担も抑えられるでしょう。

孫の養育資金を用意できる

孫の成長や人生の過程では、学費、生活費、結婚、子育てのときの費用や住宅購入資金など、たくさんのお金が必要です。
こういった費用を孫に贈与することで、孫が安心して人生を送れるようになります。

死亡前3年間の贈与への相続税加算が適用されない

子どもや配偶者などの法定相続人へ生前贈与した場合、「死亡前3年以内の贈与」には「相続税」が課されます。
つまり生前贈与してから3年以内に死亡すると、生前贈与がなかったものとして、相続税がかかってしまうのです。

しかし、生前贈与を受けるのが孫である場合、この3年以内贈与の加算は適用されません。
贈与してから3年以内に亡くなってしまっても、相続税がかかる可能性がないので安心です。

孫へ生前贈与すると色々なメリットがあるので、財産が手元にあって孫がいらっしゃる方は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

孫へ生前贈与するときの非課税制度

孫へ生前贈与するときの非課税制度

生前贈与は贈与の一種ですので、原則として、贈与税の対象となります。
もっとも、孫へ生前贈与するときには、以下のような贈与税控除や非課税制度の適用を受けることができます。

暦年贈与

暦年贈与は、贈与税の「基礎控除」を利用した贈与方法です。
贈与税には「1年に110万円までなら贈与税がかからない」という基礎控除があります。

孫へ生前贈与するときにも、年間110万円分までなら贈与税が課税されません。
毎年110万円を超えない範囲でお金やその他の財産を孫へ贈与し続けた場合には、贈与税の負担なしに孫へ財産を移転できます。

暦年贈与では財産の種類が限定されず、現預金でも不動産でも株式でも、何でも贈与可能です。
複雑な手続きが不要で手間もかからないので、まずは暦年贈与から始めてみるとよいでしょう。

1年あたりの基礎控除額は110万円とさほど大きくないと感じるかもしれませんが、複数年にわたって贈与をすることで、結果的にまとまった額を非課税で渡すことが可能となります。
ただし、この基礎控除額については近い将来見直しがされる可能性がありますので、今後の情報にも注意が必要です。

相続時精算課税制度

原則として、相続時精算課税制度は60歳以上の親や祖父母が18歳以上の子どもや孫へ生前贈与するときに、複数年にわたる贈与額累計2,500万円分までの贈与分に対する税金が控除される制度です。※1
また、累計2,500万円を超えた部分についても、一律20%という比較的低い税率で贈与することができます。

たとえば、孫へ不動産などのまとまった財産を贈与するときなどに利用するとよいでしょう。
ただし、相続時精算課税制度の利用には多くの注意点が存在します。
主な注意点は、次のとおりです。

全額が相続税の対象となる

相続時精算課税制度は、単なる非課税制度ではありません。
相続時精算課税制度は、いわば「相続税で生前贈与ができる制度」です。

相続時精算課税制度を使うと、累計2,500万円までの贈与にかかる贈与税は、たしかに非課税となります。
しかし、相続時精算課税制度を使って贈与をした財産は、すべてその贈与者が亡くなった際にかかる相続税の対象となるのです。

そのため、相続時精算課税制度は、節税が主目的となる制度ではありません。
相続時精算課税制度の活用場面としては、たとえば不動産など生前贈与で渡したい財産があるものの、そのまま渡せば高額な贈与税がかかるため、相続が起きるまで待つべきであるのか迷っている場合などが考えられます。

誤解をしたまま制度を利用すれば、相続が起きてから後悔することとなりかねませんので、この点をよく理解しておきましょう。

期限内に申告と手続きが必要となる

相続時精算課税制度を使うためには、対象としたい贈与をした翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に申告をして、「相続時精算課税選択届出書」を提出しなければなりません。

期限に1日でも遅れてしまえば対象としたかった贈与について相続時精算課税制度の適用が受けられず、高額な贈与税が課される可能性がありますので、注意しましょう。

以後は少額な贈与でも申告が必要になる

相続時精算課税制度と上で解説をした暦年贈与は選択制であり、同じ贈与者・受贈者間で併用することはできません。
つまり、相続時精算課税制度を選択すると、その後対象とした贈与者からの贈与を受けた場合には、年110万円の基礎控除枠は使えないということです。

そのため、相続時精算課税制度を選択した年以後に、その贈与者から贈与を受けた場合には、たとえ年間に受けた贈与額が110万円以下であったとしても、贈与税の申告をする必要があります。

一度選択したら暦年贈与には戻せない

相続時精算課税制度を一度選択すると、その後贈与者が亡くなるまで、その贈与者と受贈者の間の贈与にはずっと相続時精算課税制度が適用されます。

暦年贈与に戻したいと考えても、戻せるようなものではありません。
そのため、相続時精算課税制度の適用を受ける際には、慎重な検討が必要です。

教育資金の一括贈与

孫などへ教育資金を一括で贈与するとき、最大1,500万円が非課税となる制度です。※2
この制度は、平成25年4月1日から令和5年3月31日までの間の贈与が対象となります。
孫の養育には色々とお金が掛かるので、小さいうちから活用するとよいでしょう

制度の概要は、次のとおりです。

対象者

制度の対象者は、次のとおりです。

  • 受贈者:教育資金管理契約を締結する日において30歳未満の者
  • 贈与者:受贈者の直系尊属(父母や祖父母など)

対象となる教育資金

この制度の対象となる教育資金は、学校などへの入学金や授業料のほか、学習塾や水泳などのスポーツ教室の費用、海外留学の渡航費など、非常に広く設定されています。

適用方法

制度を利用する際には信託銀行に孫名義の口座を開き、そこへ資金を振り込んで管理を行うなどの手続きをとることが必要です。
まずは、取り扱いのある金融機関へ相談するとよいでしょう。
取扱金融機関の営業所などを経由して、教育資金非課税申告書を提出することとなります。

結婚・子育て資金の一括贈与

孫などへ結婚や子育てに掛かる資金を贈与した際、最大1,000万円の贈与分が非課税となる制度です。※3
平成27年4月1日から令和5年3月31日までの間の贈与が対象となります。
制度の概要は次のとおりです。

対象者

制度の対象者は、次のとおりです。

  • 受贈者:結婚・子育て資金管理契約を締結する日において18歳以上50歳未満の者
  • 贈与者:受贈者の直系尊属(父母や祖父母など)

適用方法

制度を利用するためには、金融機関と信託契約を締結する他、書面を作って贈与を受けた金銭を金融機関に預け入れるなどの手続きが必要です。
まずは、取り扱いのある金融機関へ相談するとよいでしょう。
取扱金融機関の営業所などを経由して結婚・子育て資金非課税申告書を提出することとなります。

住宅取得等資金の贈与

住宅取得等資金の贈与とは、孫が住むための自宅を新築したり取得したりするための金銭を孫に対して贈与した場合、一定額までが非課税となる制度です。※4
なお、この制度は不動産そのものの贈与や住宅ローンの肩代わりには適用できないため注意しましょう。
制度の概要は次のとおりです。

対象者

制度の対象者は、次のとおりです。

  • 受贈者:自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得または増改築などをしようとしている者で、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上であることや、贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が2000万円以下であることなど、租税特別措置法その他関連法令の定める要件を満たす者
  • 贈与者:受贈者の直系尊属(父母や祖父母など)

非課税金額

非課税となる金額は、贈与を受けた金銭を使って取得した住宅の性能に応じて、それぞれ次のとおりです。

  • 省エネ等住宅:1,000万円まで
  • それ以外の住宅:500万円まで

適用方法

この制度の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告期間)に、次の書類などを納税地の所轄税務署に提出する必要があります。

  • 非課税の特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書
  • 戸籍の謄本
  • 新築や取得の契約書の写し

手続きを忘れてしまったり適用要件を誤ったりしてしまうと、高額な贈与税の対象となる可能性があります。
そのため、あらかじめ税理士などの専門家へ相談し、申告手続きを依頼するとよいでしょう。

孫へ生前贈与するときの注意点

孫へ生前贈与するときの注意点

孫への生前贈与の際には、以下の点に注意しましょう。

お金の管理方法

特に孫が乳幼児などで小さい場合、贈与したお金の管理方法が問題です。
本人は管理できないので、当然、「親(贈与者の子ども)」が管理することになるでしょう。

このとき、親名義の預金口座に孫への贈与金を振り込んだり、親が贈与財産を勝手に使ったりすると、「親への贈与」とみなされる可能性があり、そうすると、孫への贈与税控除制度を適用できなくなったり、後に、「特別受益」が問題となって相続トラブルが発生したりするおそれが高くなります。

そのため、孫への贈与財産を管理するときには、管理する方の財産と孫名義の財産をしっかり分け、孫名義の財産にはタッチしないことが重要です。
孫がある程度の年齢に達したら、本人に渡して管理を託しましょう。

贈与契約書を作成する

孫へ生前贈与をするときには、「贈与契約書」を作成すべきです。贈与契約書がないと、後に税務調査が入ったときに「贈与」と主張できない可能性があるからです。

孫が未成年の場合には、親権者が法定代理人として契約書に署名押印をして契約書を作成しましょう。

親族間贈与においては、どうしても、「契約書なんて作成しなくてよい。」と考えてしまいがちです。
しかし、書面がないために大きなトラブルになるケースが多いので、これを決して軽く考えてはいけません。

税率に注意

孫へ生前贈与するときには、贈与税の税率に注意が必要です。
贈与税の税率には、一般税率と特例税率の2種類があります。
孫が18歳以上の場合には特例税率となって税率が低くなりますが、18歳未満の場合には一般税率が適用されて高くなります。

特例税率 親や祖父母から18歳以上の子どもや孫への贈与

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% なし
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1000万円以下 30% 90万円
1500万円以下 40% 190万円
3000万円以下 45% 265万円
4500万円以下 50% 415万円
4500万円超 55% 640万円

一般税率 孫が18歳未満の場合の贈与

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% なし
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
6000万円以下 30% 65万円
1000万円以下 40% 125万円
1500万円以下 45% 175万円
3000万円以下 50% 250万円
3000万円超 55% 400万円

控除金額を超えて贈与すると、上記で計算された贈与税がかかります。贈与税が発生したら、贈与した翌年の2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告と納税を行いましょう。

贈与税の計算方法と計算例

贈与税は、どのように算定するのでしょうか?
祖父または祖母から孫に対して、500万円相当の財産を贈与した場合と、1,500万円相当の財産を贈与した場合とに分けてそれぞれ計算の流れについて解説します。
なお、受贈者である孫は18歳以上であり、同じ年に祖父以外からの贈与は一切受けていないものとします。
また、相続時精算課税制度などの特例は使用しない前提の計算例です。

500万円相当の財産を孫に生前贈与した場合

祖父から18歳以上の孫に対して500万円相当の財産を贈与した場合、受贈者である孫が納めるべき贈与税額は、48万5,000円です。
この金額は、次のように計算します。

  1. その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計する:500万円
  2. 基礎控除額(110万円)を控除する:500万円-110万円=390万円
  3. 2の金額を「特例税率」の税率表に当てはめて税額を算定する:390万円×15%-10万円=48万5,000円

1,500万円相当の財産を孫に生前贈与した場合

祖父から18歳以上の孫に対して1,500万円相当の財産を贈与した場合、受贈者である孫が納めるべき贈与税額は、366万円です。
この金額は、次のように計算します。

  1. その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計する:1,500万円
  2. 基礎控除額(110 万円)を控除する:1,500万円-110万円=1,390万円
  3. 2の金額を「特例税率」の税率表に当てはめて税額を算定する:1,390万円×40%-190万円=366万円

特例を使用せずにまとまった額の財産を贈与すれば、高額な贈与税の対象となりますので、注意しましょう。

まとめ

孫への生前贈与を上手に適用できれば、相続税を減らしたり孫に必要な資金を与えたりできるメリットがあります。控除や非課税制度を適用して、節税しつつ贈与をしましょう。
今回は簡単なご説明にとどめていますので、相続対策で迷われたときには、お気軽に弁護士までご相談ください。

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参考文献:

※1 国税庁:No.4103 相続時精算課税の選択

※2 国税庁:No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税

※3 国税庁:No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税

※4 国税庁:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
日本大学法学部卒業、日本大学大学院法務研究科修了。個人法務及び企業法務の民事事件から刑事事件まで、幅広い分野で実績を持つ。離婚や相続などの家事事件、不動産法務を中心に取り扱う一方、新規分野についても、これまでの実践経験を活かし、柔軟な早期解決を目指す。弁護士会では、人権擁護委員会と司法修習委員会で活動している。
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