コラム

公開 2021.04.02 更新 2024.02.26

相続登記の義務化とは?法改正での変更点について弁護士が解説

相続_アイキャッチ_85

本年3月5日、所有者不明土地問題に対応するための民法・不動産登記法の改正案が閣議決定され、今国会中の成立を目指すこととされました。
この改正案が国会を通過すると、相続登記が義務化されるなど、相続・遺産分割の問題に直面している方にとっては、大きな影響があります。今後、この改正案が国会を通過した場合に、相続や遺産分割の手続きがどのように変わり、何をしなくてはいけなくなるのか、何ができるようになるのかについて、具体的に解説していきます。

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。

所有者不明土地問題とは

不動産登記簿の記載だけでは所有者が分からない土地や、所有者が分かってもその所有者と連絡がとれない土地のことを、「所有者不明土地」と言います。これは、土地所有者が死亡しても、速やかに相続登記がされないことなどが主な原因ですが、この「所有者不明土地」は、その土地の売却や土地上の建物の解体などが困難となる結果、土地の円滑かつ適正な利用に支障を来していました。

そこで今回、民法、不動産登記法が改正されることとなりました。一連の改正により、様々な点が変更になりますが、このうち、①相続登記の義務化、②所有不動産一覧表の発行、③相続により取得した土地の所有権放棄制度の新設、④特別受益・寄与分の主張の制限の4点が、相続や遺産分割を行う際に、特に大きな影響がある変更点です。

以下では、この4点について、詳しく解説していきます。

変更点① 相続登記の義務化

法改正前

これまでは、例えば、父親(A)名義の実家の不動産を、Aが死亡したあと、Aの相続人である子供たち(長男B、長女C)の遺産分割協議によってBが相続することになったとしても、Bには、その不動産の名義をAからBに変更しなければならないという法的義務はありませんでした。

もちろん、多くの人は、遺産分割協議によって亡くなった方の不動産を取得したときは、相続登記の申請をして名実ともにその不動産を自分の所有物としますが、中にはこの相続登記を怠り、亡くなった方の名義のまま長期間にわたり放置されているケースも見受けられます。このようなケースでは、不動産登記簿を確認するだけでは、現在誰が真の所有者であるのかが分からない、あるいは、真の所有者が分かったとしても、その所有者と連絡がとれないといった「所有者不明土地」になってしまう可能性が高くなります。

ところが、このような「所有者不明土地」であっても、第三者や行政機関が、勝手に建物を解体したり、土地を売却したりすることはできません。その結果、誰も利用しておらず、手入れがされていない危険な空き家が長期間放置されたり、現在の所有者と連絡がとれないために、その土地や建物を売却することもできないなど、円滑かつ適正な土地の利用に支障を来していました。

そこで、今回の改正案では、「不動産の所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により当該不動産の所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記をしなければならない。」とされました。

法改正後(遺産分割協議による相続の場合)

つまり、上記のように、Aが死亡したことによって、A名義の不動産を相続により所有することになったBは、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、法務局で手続きをして、不動産の名義をAからBに変更しなければならないこととされました。これに違反すると、10万円以下の過料に処せられることになります。
なお、Bは、BとCの遺産分割協議の結果を踏まえて、法務局に相続登記の申請をするということで問題ありませんが、BとCの遺産分割協議が長期化しているような場合には、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、いったん、BとCの法定相続分どおりの相続登記を入れる必要があるので注意が必要です。

法改正後(遺言による相続の場合)

また、遺産分割によって不動産を取得することとなった場合だけでなく、遺言によってその不動産を取得することとなった相続人も、同じように相続登記が義務化されますので、Aが「A名義の不動産をBに相続させる」と記載した遺言を残していた場合も、Bは、この遺言の存在を知ってから3年以内に、法務局において相続登記の申請をする義務を課されます。
このように、今後は故人の不動産を取得することになった相続人には、相続登記の申請が義務付けられますので、亡くなった方の財産の中に、不動産がある場合には注意が必要です。

相続登記の申請を放置した場合

また、上記のような事例で相続登記の申請を放置すると、A名義のまま名義が変更されていないため、その後、長男Bや長女Cが亡くなった場合には、長男Bの子(D、E)や長女Cの子(F、G)に所有権が移転(共有)していくことになります。所有権が移転した場合、D~Gにとっては、4人で、この不動産をどのように処分するかを協議しなくてはならなくなります。例えばD~Gの関係性が悪く、意見がまとまらないといった場合には、その不動産を売却することができない、建物が古くなっても解体すらできないなど、将来世代に無用な負担を残すことになりかねません。

そのため、将来世代に無用な負担をかけないという観点からも、遺産分割協議の成立後には速やかに信頼できる弁護士や司法書士に手続きを依頼して、実体に合った名義変更をしていくことが求められます。

変更点② 所有不動産一覧表の発行

所有不動産一覧表の発行

亡くなった方の遺産分割協議を始めるにあたって、まずは、亡くなった方の財産(遺産)としてどのようなものがあるのかの調査から始めなければなりません。不動産についても、相続人から、役所に対し、名寄帳を請求するなどして、亡くなった方の名義の不動産としてどのようなものがあるのかについて調査をする必要がありました。その結果、亡くなった方の名義の不動産で、相続人が誰もその存在を把握していなかった不動産や、他の人との共有の私道などの存在を見落としてしまい、その不動産の名義変更が済んでおらず、結局、上記の「所有者不明土地」問題が発生するということがありました。

そこで、改正案では、「所有不動産記録証明制度(仮称)」が創設されることとなり、「相続人は、登記官に対し、手数料を納付して、当該所有権の登記名義人の所有不動産記録証明書(仮称)の交付を請求することができる。」とされました。

つまり、相続人が法務局に手数料を納付して申請すれば、亡くなった方の所有していた不動産一覧表の開示を受けることができ、不動産の調査の抜け漏れが発生してしまう可能性も低くなります。その結果、不動産の相続登記の抜け漏れも発生しにくくなり、所有者不明土地問題を減らすことにつながっていくのではないかと思われます。

ただし、法務局が保有している情報も、100%完全なものとは限らないので、この「所有不動産記録証明書」の情報のみを過信するのではなく、これまでのように名寄帳などの調査も並行して行った方がよいでしょう。

変更点③ 相続により取得した土地の所有権放棄制度の新設

現在は、亡くなった方から相続した土地を国庫に帰属させる方法はありませんので、例えば、「相続で田舎の土地を取得したが、固定資産税だけがかかり続け、買手もみつからないので、国が引き取ってほしい。」といった要請をすることはできません。

しかし、所有者不明土地の問題は、相続人などの関係者がその土地に全く関心がないような場合に、その土地の処理を放置することで起きやすいので、そのような土地については早期に国庫に帰属させることで、所有者不明土地問題を少なくすることができるものと考えられます。

そこで、相続によって取得した土地のうち、一定の要件を満たす土地について、土地の所有者の申請によって、所有権を国庫に帰属させることについての承認を求める制度が始まります。国庫に帰属させることを申請する人は、その土地の管理のための「負担金」を納付しなければなりません。「負担金」の額は、今後、土地の種目に応じて具体的に定められる予定です。この「負担金」の納付と同時に、その土地の所有権が国に移転します。

したがって、上記のように、「相続で取得した田舎の土地を国に引き取ってほしい」と考えている人は、一定の負担金を納付することにより、その土地の所有権を国に引き取ってもらう(所有権を放棄する)ことができます。

ただし、下記のように国庫に帰属させることが認められていない土地もあります。

  1. 建物が建っている土地
  2. 抵当権などの担保権や賃借権が設定されている土地
  3. 通路としての使用が予定されている土地
  4. 有害物質により汚染されている土地
  5. 境界が明らかでない土地や、近隣土地の所有者との間に境界についての争いがある土地
  6. 崖のある土地
  7. 工作物・車両・樹木などの有体物が土地上に存在している土地
    など

実際の申請にあたっては、国が所有権を引き継ぐことができる土地かどうかについて、国による事前の審査が行われることになります。そのため、自分が放棄したい土地を、確実に国に引き取ってもらえる制度ではないので、この点は注意が必要です。

変更点④ 特別受益・寄与分の主張の制限

遺産分割協議を実施しようと思ったものの、相続人間で紛糾し協議がまとまらなかったため、そのまま、長期間にわたって遺産分割協議が停滞したままとなっている事案を見かけます。このような場合には、遺産分割協議がまとまっていない結果、当然、不動産の名義が亡くなった方のまま変更されていないケースが多く、結果として、上記の「所有者不明土地」の問題につながっていきます。

そこで、改正案では、遺産分割協議の促進を図るため、相続開始日(死亡日)から10年以内に家庭裁判所に対し調停ないし審判の申立てをしていない場合には、原則として、特別受益や寄与分の規定が適用されないことになりました。

すなわち、相続開始日から10年以上経過した後に申立てた遺産分割審判では、特別受益や寄与分が全く考慮されない結果、法定相続分どおりに分割するという内容の審判しか言い渡されないということになります。

したがって、「私以外の他の相続人が、故人から生前に多額の贈与を受けていたから、これを踏まえた遺産分割をしたい」「私は、故人が認知症になった後、故人の介護をずっと続けてきたから、私の取り分を増やしてほしい」というような、特別受益や寄与分の主張をすることを予定していて、なおかつ協議が難航しているような場合には、遺産分割協議を停滞させたまま長期間放置するのではなく、遅くとも相続開始日から10年以内には、家庭裁判所に対し遺産分割調停や審判を申立てることが求められます。

ただし、今度の改正案では相続開始日から10年以内とされましたが、特別受益や寄与分の主張をしたいのであれば、銀行口座の取引履歴や介護記録など、客観的な証拠を自ら収集して、それらの証拠に基づいて裁判官に対し法的に筋の通った主張をしていく必要があります。これらの証拠は時間が経過するにつれて散逸してしまう可能性もありますし、記憶が鮮明なうちに主張をした方がよいので、10年という期間を待つことなく、相続開始後、速やかに弁護士などの専門家に相談し、調停や審判などの手続きをとることをお勧めします。

まとめ

このように、所有者不明土地問題の対策のため、様々な法改正がされる予定です。

この改正により、所有者不明土地問題が少なくなっていくことが期待されていますが、相続・遺産分割を行う際には大きな影響を与えることになりますので、実際の相続手続きの際には、相続問題に詳しい弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

▼不動産関連の手続き▼

こんな記事も読まれています

Authense法律事務所が選ばれる理由

Authense法律事務所には、遺産相続について豊富な経験と実績を有する弁護士が数多く在籍しております。
これまでに蓄積した専門的知見を活用しながら、交渉のプロである弁護士が、ご相談者様の代理人として相手との交渉を進めます。
また、遺言書作成をはじめとする生前対策についても、ご自身の財産を遺すうえでどのような点に注意すればよいのか、様々な視点から検討したうえでアドバイスさせていただきます。

遺産に関する問題を弁護士にご依頼いただくことには、さまざまなメリットがあります。
相続に関する知識がないまま遺産分割の話し合いに臨むと、納得のできない結果を招いてしまう可能性がありますが、弁護士に依頼することで自身の権利を正当に主張できれば、公平な遺産分割に繋がります。
亡くなった被相続人の財産を調査したり、戸籍をたどって全ての相続人を調査するには大変な手間がかかりますが、煩雑な手続きを弁護士に任せることで、負担を大きく軽減できます。
また、自身の財産を誰にどのように遺したいかが決まっているのであれば、適切な内容の遺言書を作成しておくなどにより、将来の相続トラブルを予防できる可能性が高まります。

私たちは、複雑な遺産相続の問題をご相談者様にわかりやすくご説明し、ベストな解決を目指すパートナーとして供に歩んでまいります。
どうぞお気軽にご相談ください。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(神奈川県弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。相続を中心に、離婚、不動産法務など、幅広く取り扱う。相続人が30人以上の複雑な案件など、相続に関わる様々な紛争案件の解決実績を持つ。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問合せはこちら

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。

こんな記事も読まれています

コンテンツ

オペレーターが弁護士との
ご相談日程を調整いたします。